2006年01月05日

進む!木の家の可能性

 日本住宅新聞(平成18年1月5日)に掲載された文章が最近実感として捉えている木造の可能性の一端であるので、ここに書きとどめておきます。
 私の記事の前には、住木センターの部長代理の山田誠氏が「ここまでできる木造住宅」という表題で木造の防火性能が現在どのような性能を持ち、法としての位置付けを整理されていています。
 “国産の木で「木の家」を”というのがこの号の大きなテーマで、公の立場の整理と現場の立場での記事が今回の狙いのようです。
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■木造住宅は大工の技でだったのだが・・・
 木造住宅は担い手である大工棟梁の技を生かして造られることが望ましいと考えています。親方から習ったことを現場で生かし、次の代に受け継いで行く、そんな形で今まで木の家づくりの技術は受け継がれています。常に現場がその学習と修練の場となって行くことがよいのでしょう。それは設計者もまったく同じことです。そんなこと言ったって、実際に多くの現場では全自動プレカットで加工された木材が届き、大工はそれ以降の組み立てからしか関わらないような状況では無理な話だ。なんていう声も聞こえてきそうですが・・・。

 阪神大震災では「プレハブは残った」などという見出しで木造で建てられた住宅がいかにも脆弱なものであるかのような印象が植え付けられてしまいました。確かに、いわゆる在来工法と呼ばれる軸組構法の建物に多くの被害が出てしまったことは事実ですが、耐震的に不適格であったり、蟻害の影響によるものが多かったことが調査からは分っています。単に構法上で優劣をつける評価は不適切であったわけですが、一度出てしまった風聞に攻する手立てをその段階では、大工や設計者はもとより当時ではまだ数少なかった木造の研究者でもあまり持ち合わせていなかったという状況であったように思われます。


■阪神大震災から11年という時間
 その震災から11年目となりました。震災直後には被害大きさによる混乱もありましたが、この時間は木造の研究分野ではさまざまな内容の研究や実証実験がなされ、実際の現場にまでその成果生かされ出した時期と見ることができるのではないでしょうか。木造の研究者も増えたようです。建築基準法も性能の視点が導入され、可能性が広がる方向付けがなされました。しかし、木造住宅の現場では、いっきに性能ということでは対応できるわけもなく、むしろ詳細な仕様が規定され、接合部分などについてはいわゆる公庫仕様がそのまま告示化されました。それは、求める性能を仕様に落とした場合の一例であるだけなのですが、町場の現場ではそれを超える術を持ち得ないというのが正直なところではないでしょうか。
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 意識ある研究者たちは、客観的に木造を捉えるため、特に構造と防災の視点での研究、確認作業を進めてくれました。この数年の間に彼らの成果は実際の現場に落としこめる仕様として告示化されています。実務者としてはようやく使える仕様の一端が表に出始めたと考えています。大工棟梁の技を生かした家づくりが、ようやく基準法の中でもわずかではあるが位置付けられるようになってきたという状況です。

■土塗り壁告示
 土塗り壁は自然素材といった視点からも、また、その素材感や環境的な視点からも評価しようという雰囲気がありますが、最も肝心なことは、土壁風の仕上げの視点ではなく、構造面でどのように評価できるのかということでした。都市部ではその実例は少ないといっても地方では、まだまだ多くの現場で行われている仕様でしょう。しかしながら、左官職それぞれの考えによるその地域の土や施工法の仕様の基準はまちまちであるため構造的な評価は壁倍率で0.5と低いものでした。この倍率では筋交いを併用するしか構造としての軸組みは確保できないものです。構造の特性からいえば両者は必ずしもなじみの良い関係ではありません。貫があり、筋交いがあり、小舞があって現場では何を優先していくのかを考えると、実際には戸惑いがあったのではないでしょうか。

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竹小舞に荒壁塗り

 平成15年12月9日に耐力壁の仕様が規定されている告示1100号が改正されました。その仕様によれば、土塗壁の壁倍率が最大1.5倍になりました。従来の三倍となったことで、木造の施工現場としても違和感の少ない納まりが可能になったと考えられます。けっして高い倍率とはいえませんが可能性を広げる第一歩とみてよいと思いました。関東と関西では土の成分が異なるために、関西では告示の仕様で施工した場合でも実施の倍率は高いものと考えられています。こういったことは、その地域でしっかりと把握しておく必要も求められるでしょう。いわゆる固い壁では柱の足元への引き抜き対策も合せて考える必要があります。ホールダウン金物を使うということで解決するわけにもいきません。

 この告示改正では、土壁塗りと一緒に格子壁、落し込み板壁など粘るという木の特性を生かした耐力壁の仕様も明確にされました。必ずしも倍率として高いものではありませんが、木造らしい仕様が提示された意味は大きいと思います。耐力壁の要素の考え方としての仕様を告示として現場に投げ掛けられたとみてもよいのかも知れません。技術としては、発展の可能性を持ちうる仕様と考えられますし、その性能を上げることは工夫次第では十分に可能でしょう。

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格子壁(左)と落し込み板壁(右)

 構造はあくまでも全体のバランスが大切で、一部が頑張るような造り方は木造住宅ではあまり望ましいものではないと考えています。それは間取りと耐力壁を含む耐震要素、その要素を構成する接合の考え方など、全体から部分、部分から全体を見据える視点が重要であろうと考えています。大工棟梁が持っている視点であろうと思います。

 土壁や格子、板壁などの性能はそれぞれの職人の技量を要求すること、構造がそのまま意匠となるということは大切な視点として考えておきたいことです。簡便に簡略にという世の中の流れとは逆をむいているかもしれません。むしろ本来の大工、左官などに受け継がれた木造の技をこれから生かすことが重要であることが問われているようにも思えます。これらの告示は国土交通省の長寿命木造推進プロジェクトの成果として示されたものでした。


■準防火地域でも木造らしい家づくり
 防火の指定地域は木造らしい住宅を造りたいと考えているときに大きな規制となって、実務者としてはなやましい限りでした。準防火地域では外壁、軒裏ともに防火構造以上の性能が要求されています。土蔵や土塗壁の真壁造はもともと防火構造でしたのでその仕様であれば問題はありませんでした。しかし、それだけでは構造的には不利でしたので必ずしも一般性は持ちえないと思っていました。

gaikan-c_s  平成16年7月7日の告示1359号(防火構造の構造方法を定める件)の改正により、真壁でも土塗壁の塗厚さとの関係で下見板張りの仕様が位置付けられました。このことは、防火地域では大壁でモルタル塗りやサイディング張りが一般化している状況に一石を投じることになったと思います。構造の改正告示とあいまって、土塗壁で耐力と防火上の対応がしやすくなったわけです。単純には構造上の性能(塗り厚さ)を満足すればそのまま防火構造となります。

 防火構造の告示改正と同様に告示1358号(準耐火構造の構造方法を定める件)によって、軒裏に野地板30mm以上の無垢の木材を現しにできる仕様が加わりました。火災にあっても、厚い板材は簡単には抜け落ちず、室内への延焼が食い止められるということが確認されたからです。従来であれば、軒裏は不燃ボードなどで防火性能を満足するしかありませんでした。この改正は、景観上にも大きな効果をもたらす画期的なことだと思います。


■都内の準防火地域で木組みの家づくり
 この数年で幾つか改正された告示を見てきましたが、これらの内容を活用して都内の準防火地域内で計画した木組みの家があります。基本的には骨太の製材を使い、大工棟梁たちの技を生かし、左官の持ちうる腕を生かして造っていこうという住宅です。

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 もともと厚板で野地板をつくり、土壁を用いてという造り方をしていましたので、なんのことはない、今までとあまりかわることのない造り様でした。むしろ、告示が後押しをしてくれていると思っていました。変わった部分としては、土壁の部分では、下見板で隠れる部分でも中塗りまで行う。構造的には内部で面材等による対応していたことをむしろやめた。ことなどがあげられます。同時期に防火指定のない地域で建設していた木組みの家もほぼ同様の仕様です。窓に網入りガラスを使わないことだけが異なるところでした。



 土壁の真壁造や無垢の板材などを用いることでもうひとつの効果として、いわゆるシックハウスウ法でいうところの居室で換気扇の設置が必要とされないことです。使用材料は無垢の木材と土壁(漆喰仕上げ)という自然素材ですのでF☆☆☆☆よりも扱いは有利となります。さらに、告示273号の第二項の四に真壁の建物に関する規定があり、ここでは面材等を用いていませんので換気扇は必要としていません。ただし、このことは、告示としてはこういった建物は隙間だらけと考える、ということと考えた方が良いのかもしれませんが(笑)。

■みんなで木の家の可能性考えよう
 本来の木の家づくりというのは、木をしっかりと組む木組み、その前提としてそれに適う地域木材を調達、架構と間取りを整合させる計画、素材を生かした使い方など、今に始まったことではありません。むしろ古くからの技術そのものといえるかもしれません。法律の部分が足かせになっていたこともあったようにも思いますが、阪神大震災という大きな災害を契機に不確かだった木造の技術が確認され、現場で生かされるようになってきました。まだ端緒についたという状況と認識していますが、職人の技を生かす場がむしろ求められていると考えます。大工、設計、研究それぞれの分野の連携が求められていると思われます。次の10年、木の家の可能性を広げるには現場の声が必要となるでしょう。

■関連情報 木の家ネットインタビュー

posted by 太郎丸 at 18:04 | Comment(0) | 家・建築のことなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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