建築知識に連載した木造住宅私家版仕様書も、阪神大震災の直前からの執筆であったからちょうど10年前になる。2年間の連載のあとにムック化し、「架構編」として現在も書店に並べてもらえるのはありがたいことだ。しかし、その間いろいろと活字化することの良し悪しについて悩ましいことが耳に入ってきた。現場にあってはこの本の通りにやってくれ的に指示するのみの設計者の話など。
松井、小林の両氏と宮越もそれぞれが現場で棟梁から聞いたりいたり見せてもらった事柄を、我々なりに悩み理解し整理して表現したものであって、具体的な現場で起きたことがその情報源となっている。その状況では我々もいろいろと悩みながら答えを出してきたもので、いま目の前で起きていることを解決しえるのかどうかは別のことと捕らえてもらいたかった。状況がまったく同じということはありえないのだ。マニュアル化の危険性ということを突きつけられてしまった。

生の言葉で伝えることがやはり重要で、そんな場の提供が木組みゼミとなった。ちょうど松井事務所が面積拡張によってスペースが拡大し、日曜日であればそこを教室として利用できるところから場所の問題が解決した。
私家版仕様書が教科書ではありうるが、我々も10年間の間に考え方に変化が起こって当然であるし、木造界にあっては震災以降の10年間は木造の構造や防災面の研究が歴史的にも進んだ時期といえるだけに、実践を通した今の私家版を伝えていこうと考えた。

昨年は、学生さんからベテランの実務者まで年令の巾も大きく、現場用語をかみ砕いた解説も必要であったが、話のテンションが上がってくると、どうしても現場用語そのままの話になりがちで、現場をほとんど知らない学生さんにはちょっときつかったかもしれないとの反省があった。
ゼミの特徴のひとつは、私家版への厳しいアドバイザーとして風基建設の渡辺氏にも参加いただいていることで、設計者だけではなく施工の立場からも木組みの家を造り手の目で解説いただけることは我々にとってもヒントの多い内容となっている。また、松井夫人の美術講座も基礎の素養を学ぶきっかけとなり、他にない講座になっている。


人に伝えるのことが難しいことは百も承知しているが、我々自身が今を再確認する作業にもなっていて、お互いに一歩あるいは半歩でも成長できればなによりだ。4月17日(日)開校。12名の受講生を相手に我々もバージョンアップしていきたい。
[2005.04.08]

