2012年01月08日

IS学生の課題で武蔵豊岡教会堂の模型を作る・・・小屋組みが変更されていた?

武蔵豊岡教会堂・その2
s2011_0823_ 037-02.jpg毎年6〜8月に当事務所では、ものつくり大学のインターンシップ制度で学生を受け入れています。主に模型作りや文献資料の整理などを課題としていますが、昨年は学生の希望もあって、武蔵豊岡教会の教会堂の模型作りを計画しました。

一つには、市内で昨年5月にヴォーリズに関する講演会などもあり、教会堂を始めて見る機会もあって、私自身も強く関心をもっていたこと、また隠れている小屋組みのシザーズトラスの仕組みに建築的な興味を覚えたということからでした。

しかし、建設当時の図面からは、トラスの納まりを十分に理解できませんでした。交差部分や吊りボルトの納め方、登り梁や小屋束と水平梁の取り合い方などは、図面の表現だけではその構成を把握するには情報が足りないものでした。

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施工の段階、あるいはその直前に詳細な検討が加えられることをあらかじめ想定していた図面であったのかも、と予測しました。当時の設計者と施工者との関係を知る手がかりはありませんが、このあたりのことも興味深いものと思えました。

模型作りといっても、基本的には実際と同じ情報が得られないと、なかなかうまく形として実現できるものではありません。それには、図面を見て想像していても答えが出るものではありません。ましてや学生は教会堂を見たこともありませんので、理解するには実際に実物を見て触れることが一番です。
教会に教会堂の見学をお願いし、快く受け入れていただけました。役員の方からは教会堂の歴史、この地にこれだけの規模のものができた背景などを説明いただき、地元民としても教会に対する意識が深まりました。

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教会の内外観だけでなく床下や小屋裏などを見る機会が得られたことは、たいへん貴重な体験となりました。築90年近くを経た建物で、今なお当時と同様に多く信者の皆さんを包み込み、力強く存在している訳ですから、それに触れられたことは建築に関るものとしては、とても刺激的なことでした。

想定していなかったのが小屋組の架構方式です。建物には天井が張られていますので、その骨組みはもともと見えるものではありませんでした。

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現況の小屋トラス


s2011_0711_ 076.jpg方杖の納まり

他のヴォーリズ設計とされる教会堂と特徴を異にしているとされているようです。
天井も格天井ですから和風の要素が強く、定かではありませんが、当時の大工棟梁の意向が強かったということもあったらしいとも言われています。

その隠れていた小屋組は当初の図面の形式ではなく、キングポストトラス+方杖という方式に変更されていました。それを見たときには驚きと同時に大発見か、などと思いましたが、教会で所有する図面には、今見た方式の変更の複写図面があり、工事のどこかの段階で架構に変更が加えられていたことは確認できました。
この図には、事務所の署名等はないのですが「会堂小屋新面図」と右から横書きで記述されているので、ヴォーリズ事務所側で描いたのではないかと推測しています。
「図面」ではなく「面図」と書いていますが、これは、平面図、立面図のように小屋面図という意味なのか?と思えます。本題ではありませんが、ちょっと気にかかったところです。
s-s001.jpg原設計のシザーズトラス(トレース図)
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 現況の小屋トラス(模型用に作図)

小屋裏内部は真っ暗です。
懐中電灯で浮かび上がって見える小屋組の米松材(?)と思われる骨組みは黒く焼け時間を感じさせますが、架構はいたってシンプルなものです。見たいと思っていたシザーズトラスでなかったところが、いささか残念ではありました。

この教会堂の完成より7年前(大正5年)には明治学院の教会堂がシザーズトラスで完成しています。当時の武蔵豊岡教会の関係者は当然のこととして、これを見ているものと思われます。このトラス方式はやはりそのまま構造形式を見せることを意識したものと考えられます。
少なくとも、設計段階では小屋組みは見せることは意識されていたと考えられます。とすると、天井をどの段階で張ろうと考えたのか、それは何故か。見えなくなるのであれば、なにもシザーズトラスでなくてもよいという判断がどのタイミングであったのか。などと考えをめぐらすのは、90年以上前の当事者たちとその時間を共有できたような感覚になり、学生ともどもとても楽しい体験となりました。
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写真を参考に、模型用の図面を作成しなければなりませんから、分からないところは想定して描くしかありません。これは、実質的に設計していることと変わりません。
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豊岡と明治学院では、共に梁間6間(約11m)と同スパンで共通する点があります。計画では、この形式を写しとしたのか。しかし、キングポストトラス+方杖の形式に変えた。これは何故か?作図しながらこの問い掛けが続きます。
方杖の角度が気になりました。原設計の鋏梁を切断して水平梁を受けるという納まりになっており、この納まりに設計担当者はいろいろ悩んだのではないかと想像しました。室内から見たときの天井の折上げ角度などは原設計の角度のままで計画したい(設計の意向であるかは?)。
しかし、方杖であるならもう少し角度をつけたほうが構造的に効率は良いはず。だが、天井から飛び出すことはできない、などと考えたのではないかと。 

さらに、材料発注の段取りなどもあるでしょうから、現場からは早く図面を出してほしいなどと言われていたかもしれません。この巡らせる想像に答えは出ないのですが、面白い思考作業でした。

竣工時の教会堂の写真を見ると、屋根は天然スレートでした。今より重厚な感じであったと思います。天然スレートの建物は、当時としてはとてもモダンで西洋の匂いのするものであったと思われます。しかし、その重さもあって築後50年近くなると雨漏り等もあったようです。大阪万博の前後に屋根改修工事が教会設立80周年の事業として行われ、1971年に現在の銅板瓦棒葺きに葺き替えられています。野地板にもかつての雨漏りの痕跡と思われるシミらしきものが見えました。
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模型の縮尺は1/30。普段の設計でもこの縮尺で架構模型を作っていますので、同サイズで制作しました。ただ、少し大きすぎ、保管する場所に困りました。(笑)
この縮尺では、模型も作りこもうと思えばどこまでも細工することは可能ですが、小屋組をメインとした断面模型という方針で進めました。

模型を作っていると、図面も描ききれていない部分が必ずでてきます。さて、どうなっているのか、どう納めるのかなど設計の思考が必要となるところです。
完成模型の出来は、意図を十分に表現できて上々のもとの思います。インターンシップの期間も延長しながら頑張ってくれた学生たちにも良い成果となったものと思います。
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[2011・夏]

posted by 太郎丸 at 02:18 | Comment(2) | 家・建築のことなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
宮越様、はじめまして(実は十数年前に六本木の建築知識社でのniftyのワークショップでお会いしております(^^)。)、かじさんと申します。
先月のクリスマス会を偶然に武蔵豊岡教会で過ごしました。
入ってその構造による雰囲気の良さに心地よさを感じました。
それでその構造を検索しているうちにこのHPにたどり着きました。
段々教会建築物が無くなりつつあります。ちょっと寂しいのですが、久しぶりに気持ちのよい教会で過ごしたのは幸いでした。
近所の別の教会はシザーズトラス構造ですが、見ていて独特の雰囲気を醸し出しますね。
Posted by かじさん at 2013年01月02日 11:16
かじさん
太郎丸です。
建築知識社でのniftyのワークショップなつかしいですね。
昨今は、木組みの木造もいろいろと窮屈になってきました。
武蔵豊岡教会は築90年となりますが、改修されてから以降もこの形は残っていくでしょう。
シザーズトラスを見ることはできませんでしたが、今年は曳家工事が始まるようですし、大正12年に造られた建築はとても興味深いものです。
見学会の企画なども組まれると思います。
Posted by 太郎丸 at 2013年01月15日 18:56
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