2009年07月19日

「筋交い」は伝統構法の要素と考えてよいのか?

町で見かけた在来工法住宅筋交い(すじかい)は軸組みを固めるために取り付ける斜材です。
筋違いなどとも書きます。これは素直に読むと「すじちがい」となりますが、こういった表現で用語としては用いられています。
その姿から考えると「交」の文字のほうがその形を示していると言えそうです。ただ、「すじ」が「ちがう」といういうのも軸組みのタテヨコの構造材の構成に対して、斜めと向きの違うことから考えると筋が違うというのも理にかなった言い方のようにも思われます。
 たすき掛け筋交い:町で見かけた在来構法の住宅

建築基準法施行令第45条(筋かい)、第46条(構造耐力上必要な軸組等)、告示第1460号(木造の継手及び仕口の構造方法を定める件)にその材料や留め付け方などを示した仕様があります。四角形の対角線に斜材を打ち付ければ、その軸組みは歪みにくくなり、壁としての耐力を確保できるという機構です。三角形不変の法則というわけです。
  
斜材の両端部をどのように、柱あるいは横架材(土台、胴差など)に取り付けるのかということがポイントです。現在は、平成12年告示第1460号にプレート系の金物で固定することが条文に明確に記述されました。これは旧住宅金融公庫融資住宅のいわゆる公庫仕様がほぼそのまま告示として表現されています。逆に言えば、もともと法で意図していたことを仕様化すれば公庫仕様であったということなのでしょう。仕様規定の基本ルールは金物で補強することになります。これはフラット35にも引き継がれています。
法は性能が保証できれば自由度があるように「同等」という表現を謳っています。この同等に対しての手続きのハードルは高く、実用としての利用のメリットがあるのかということから考えると課題が多いように思います。

さて、これらの法の規定している住宅の造り方は、100年前の棟梁たちが作ってきた住宅、各地に民家や町屋として今でも残っている造り方とは基本的に仕組みが異なります。誤解があてはいけませんが、金物を使うことは構造上は間違いではありません。ただし、金物を使わずとも作ることのできる造り方があって、今でもその普遍性は変わることがないということが重要だと考えているわけです。これらを伝統構法と呼ぶものと理解しています。

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[豊国 士農工商之内 工 安政5年(1858年)]
足場丸太では斜材でフレームを固めている
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[広重 名所江戸百景 馬喰町初音の馬場]
火の見櫓には斜材を設けて固めている
斜め材で壁、あるいは床面を固めるという方式は、民家などで見ることはほとんどありません。上の錦絵は建て方の様子を描いていますが、丸太で足場を組んでいる様子が分かります。斜めに丸太を取り付け、足場の歪みを斜材の効果で防ごうとしています。

右の錦絵も同時期に描かれたもので、奥に火の見櫓が見えて、そのフレームには斜材が用いられています。
この時代の錦絵には、他にも大きな木造橋の支柱に斜材を設けたものなども見ることができます。

斜材は効果的に軸組みを固めることのできる方法として理解していた例証になるだろうと思います。軸組みに斜材(筋交い)を入れることだけ考えれば施工的には難しいことではなかった思われます。でも多くの場合、少なくとも住宅には使わなかった。
 

この理由を推測すると、斜め部材の取り合い部分の接合が引っ張られる方向には効かせにくく、施工できてもその効果は期待できないことを実感していた。圧縮側の場合には突っ張って効くのは分かっていたが近くの接合部を壊す働きをし、柱の足元も大きく浮き上がるためこれに対する備えの工夫に答えを出しにくかった。これらへの対応を現在では金物補強するということで、問題解決していると考えるわけです。
また、タテの柱材、ヨコの土台や桁などの横架材に斜め材をはめ込む程度の施工はできても差し口仕事とする(したいと考える)ことは接合点付近で欠損が集中してしまうことになり、拒絶感もあって嫌ったのではないか。多くの民家は真壁ですから、見える構造材に斜め材の取り合いは意匠的にも納得できるものではなかったのではないか。などとも想像します。

さらに、土塗り壁とは納まりの上では不向きであることは間違いありません。貫を入れ、それに筋違いを取り付けるのには違和感があります。土壁を塗るためには貫は必須で、こちらを優先したということはごく自然な考えでしょう。壁に筋交いを塗り込めたとしても、筋交いに沿ってひび割れが生じることはすぐに分かったはずです。斜材で固めるより、土壁をしっかり作ることが長期的に建物を丈夫にすることと考えただろうと思うわけです。
あくまでも予測の域をでませんが。ただし、当時の棟梁たちが知っていた仕組みを使ってこなかったということは、筋交いは伝統構法には不向きの構造要素と考えておいたほうがよさそうです。ましてや、現在でも、筋違いの両端部に金物を取り付けることを前提としますので、木との相性においてはなおさら不向きのものですし、見せられる納まりには今だになりえていないわけです。
内外大壁の作り方にしてしまえば、見えなくなり、構造上は所定の性能がありますので耐震要素としては活用できないわけではありません。しかし、真壁を前提とする伝統構法での架構の仕組みにとしては、告示仕様の筋交いを無理して使うする必要はないでしょう。斜材を使うのであれば、工夫しなければならないことがありそうです。

現状での告示仕様の筋交いの利点は、小さな部材断面で構造耐力を確保できているということ。金物を使うことの簡便な施工法で再現性が高く、その点ではコスト的にもメリットがあるという造り方である、ということは言えるのだろうと思います。

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信州妻籠(1997年ごろ)
下見板の上の部分に筋交いが見えます。
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 岡山足守(2005年) でみた工事中の住宅
土壁と筋交い室内を大壁とするものと思
われます。金物はステンレス。
 地方に行って、土壁に筋違いを取り付けた住宅などもけっこう見受けましたが、これは建築基準法の下ではしかたのない折衷案みたいなものとして存在させられたもの、と考えることにしています。平成15年の土壁告示で耐力壁の倍率が一定の数値を確保できるようになりましたので、こういった対応をする必要は少なくなったと思われます。

土壁塗りも地域に根差した左官技術ですので、告示の仕様だけで限定できるものではありません。しかし、それまで耐力要素としてわずかに倍率0.5を与えられていたものが、使えるレベルまでの倍率1.5になった意義は大きかったと考えています。

しかし、告示仕様は全国仕様となりえないということも課題として顕在化してきて、地域固有の仕様に厳密には対応しずらい点もいろいろ見えてきました。そのため告示に準拠するためには各地で個別対応が求められる状況も生じてしまっています。(これは別のテーマで)
 
posted by 太郎丸 at 19:48 | Comment(0) | 伝統構法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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